2009年 12月 17日
Q&A H1N1インフルエンザワクチンの保存料 |
【質問】
H1N1インフルエンザ・ワクチンを接種された妊婦さんより、ワクチンに含まれる保存料について、質問をいただきました。
(質問文 抜粋)
保存料、チメロサール?が自閉症を引き起こすなど書かれてるものがあります。
オーストラリア政府が運営しているサイトを自分で読んだりもしましたが、保存料がはいっているのかどうか、どんなものが入っているのか具体的にわかりませんでした。
日本では保存料?がないものを妊婦さんに打つそうです。
オーストラリアはどうですか?
保存料のはいっている同じものを妊婦さんもそうでない方も打つのでしょうか。
【回答】
結論から先に申し上げると、
オーストラリアのH1N1インフルエンザ・ワクチンには、保存料のチメロサールが含まれているものと、いないものとの2種類あります。
妊婦さんには、保存料のないものが使われていることと思いますが、実際の各現場での使用されているかの状況は、申し訳ありませんが把握しかねますので、ご容赦ください。
憶測でお話するのは危険なのですが、毎年のインフルエンザのワクチンと同様と考えると、個々で接種をお願いするようなケースでは、チロメサールが含まれていないものが使われるのが通常だと思います。
チロメサールが含有されているワクチンでも、チロメサールの問題となっている水銀量は妊婦さんの水銀摂取許容量よりもとても少ないものです。また日本人の食事からの平均水銀接種量と比較しても、とても少ないものですので、ご安心ください。
<チメロサールと副作用> *1 *2 *3
チメロサールは、殺菌作用のある保存料です。
注射薬自体に病原菌が混入して、それを接種された患者さんがたくさん亡くなったという事故があり、このような惨事を避けるため、保存料が加えられるようになりました。以前はよく添加されていましたが、今は使用量が少なくなったり、使用しないワクチンが増えてきました。
チメロサールが問題視されている点は、この化合物に水銀が含まれているためです。チメロサールに含まれるのは、エチル水銀になるのですが、この化合物による副作用は過敏症以外よく分かっていませんが、問題視されるメチル水銀と似ているため、同等の基準で考えられることが多くなっています。
アメリカで自閉症の子供の率が増えている原因が、アメリカの乳児にたくさん接種されるワクチンに含まれるチロメサールが原因なのではないかと発表した方がいたため問題になってきていますが、チメロサールが原因となっているという結論は出ておりませんので、はっきりしたことは言えない状況です。
(実際、乳児がワクチンと共に接種されるチメロサールの量がアメリカでは、諸外国によりも多かったと言われています)
<オーストラリアのワクチンのチメロサール含有状況 > *4
オーストラリアでは2000年より、乳児、小児8歳以下が全員受けるワクチンには、チメロサールが含まれていませんが、唯一、hepatitis B vaccines (Engerix-B)は例外で、用量を少なくしたメロサールが含まれています。
他、各ワクチンのチメロサール含有については、以下のサイトに掲載されておりますので、ご参照ください。
http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html#8
<オーストラリアのH1N1インフルエンザワクチンに含まれるチメロサール>
オーストラリアで使用されているH1N1インフルエンザワクチンは、CSLが開発した、Panvax(R)です。*5
このオーストラリアのH1N1インフルエンザワクチンは、
1人分(0.5mL)が、注射器に入ったものと、
10人分(5mL)が、1瓶(バイアル)に入ったもの
以上の2種類の企画が発売されています。*6
1人用になっているものについては、保存料のチメロサールは含まれていません。
10人用になった瓶(バイアル)は、その度に針を刺すことになり病原菌の混入の可能性が1人用と比較して高くなるため、チメロサールが加えられています。
10人用(5mL)の1人分(0.5mL)中には、水銀24.5 µg *7 が含まれています。
ここからは憶測なのですが、私の知る限り、通常のインフルエンザのワクチンにおいては、複数人数用のワクチンは、老人ホームなどで、全員が接種されるような場合に用いられており、GPにおいて希望でインフルエンザのワクチンをお願いをするような場合には、1人分になったワクチンが使用されています。
そのため、憶測でお話するのは危険ですし、H1N1の行き渡り状況にもよってくると思うのですが、今回のケースでは、ご質問された妊婦さんには、1人用の保存料なしのワクチンが使用された可能性が高いのではないかと思っています。
<危険とされる水銀量について>*3 *8 *9 *10
問題となっているのは、チメロサールに含まれる水銀ですので、実際に、どれくらいの水銀を摂取(及び接種)しても安全なのかというのが、次の論点となってきます。
暫定的耐容摂取量は、人が許容できる、体重kg当たりの一週間当たりの摂取量(Provisional tolerable weekly intake (PTWI) (µg/kg/week))として表記されます。
2003年、国際専門会議(JECFA)において、発育途上の胎児を十分保護するため、水銀の暫定的耐容摂取量(PTWI)が、以前の3.3µg/kg/weekから引き下げられ、今は1.6µg/kg/weekと規定されています。
各国の暫定的耐容摂取量は、国毎に異なるのですが、オーストラリアでは、上記国際会議と同量で設定されています。
ちなみに日本でも、上記2003年の変更を受けて引き下げられ、現在は2.0µg/kg/weekとなっています。
<ワクチンに含まれる体重当たりの水銀量と水銀摂取量>
上記に記載の通り、10人用(5mL)の1人分(0.5mL)中には、水銀24.5 µgの水銀が含まれます。*6
暫定的耐容摂取量と比較するには体重毎の用量になるので、実際には各個人の体重によるのですが、日本人女性の体重の目安として50kgとすると、
体重kg当たり0.49µg/kg、約0.5µg/kgとなります。
1週間当たりの暫定的耐容摂取量、1.6µg/kg/weekと比較しても少量ですので、この量は問題がないことと思われます。
日本において、2004年までの過去13年間の日本人の1日水銀接種量調査の結果は、以下の通りになっています。
水銀の摂取量(総水銀換算): 8.42µg/ヒト/日
(うち魚介類: 6.72µg/ヒト/日、その他の食品:1.70µg/ヒト/日)
比較のため、上記を体重50kgの人が1週間当たりに摂取する量として計算すると、
8.42÷50×7=1.17µg/kg/weekです。
この量とH1N1インフルエンザのワクチンから接種されたかもしれない水銀量を加えると、1.17+0.49=1.66µg/kg/weekとなります。
このことから、インフルエンザを接種されたその週においては、オーストラリアの規定よりも少し上回ってしまった可能性がありますが、日本在住の方よりもオーストラリア在住ですと水銀を多く含む魚を食べる機会は大概にして少ないため、食事からの摂取量はこの値まで達していない可能性が高いのではないかと思っています。
<まとめ>
上記の実際の数値の比較から、もしチメロサールを含有するインフルエンザのワクチンを接種していたとしても、その含有する水銀量は、日常の食事から摂取する水銀量と比較すると少なく、問題にはならないと思われますので、ご安心ください。
長々となりましたが、強いて言うならば、このワクチンからの水銀量というよりも、日常の食事から摂取する水銀を少し気をつけてみるといいのではないかと思いました。しかしオーストラリアでは日本のように魚介類を食べられる環境にないことが多いため、問題にならないと思いますが、厚生労働省の以下のページをご参考にしてみてください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/051102-1.html
*1 http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/idsc/disease/thimerosal1.html (チメロサールについて(日本語))
*2 http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html
*3 http://www.racgp.org.au/h1n1/34286
*4 http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html#8
*5 http://www.h1n1vax.com.au/s1/cs/auvx/1249870357676/content/1249870357436/content.htm
*6 http://www.avn.org.au/library/pdfs/090915_CSL_A-H1N1VaccinePackageInsert_BasedOn2007Approvalfor%20Afluria_UCM182401.pdf (pdf file)
*7 µg=mcg (1µg=1/1,000,000g) (100万分の1グラム)
*8 http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html#3
*9 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/051102-1.html (水銀について(日本語))
*10 http://www.chem.unep.ch/mercury/Report/JECFA-PTWI.htm
H1N1インフルエンザ・ワクチンを接種された妊婦さんより、ワクチンに含まれる保存料について、質問をいただきました。
(質問文 抜粋)
保存料、チメロサール?が自閉症を引き起こすなど書かれてるものがあります。
オーストラリア政府が運営しているサイトを自分で読んだりもしましたが、保存料がはいっているのかどうか、どんなものが入っているのか具体的にわかりませんでした。
日本では保存料?がないものを妊婦さんに打つそうです。
オーストラリアはどうですか?
保存料のはいっている同じものを妊婦さんもそうでない方も打つのでしょうか。
【回答】
結論から先に申し上げると、
オーストラリアのH1N1インフルエンザ・ワクチンには、保存料のチメロサールが含まれているものと、いないものとの2種類あります。
妊婦さんには、保存料のないものが使われていることと思いますが、実際の各現場での使用されているかの状況は、申し訳ありませんが把握しかねますので、ご容赦ください。
憶測でお話するのは危険なのですが、毎年のインフルエンザのワクチンと同様と考えると、個々で接種をお願いするようなケースでは、チロメサールが含まれていないものが使われるのが通常だと思います。
チロメサールが含有されているワクチンでも、チロメサールの問題となっている水銀量は妊婦さんの水銀摂取許容量よりもとても少ないものです。また日本人の食事からの平均水銀接種量と比較しても、とても少ないものですので、ご安心ください。
<チメロサールと副作用> *1 *2 *3
チメロサールは、殺菌作用のある保存料です。
注射薬自体に病原菌が混入して、それを接種された患者さんがたくさん亡くなったという事故があり、このような惨事を避けるため、保存料が加えられるようになりました。以前はよく添加されていましたが、今は使用量が少なくなったり、使用しないワクチンが増えてきました。
チメロサールが問題視されている点は、この化合物に水銀が含まれているためです。チメロサールに含まれるのは、エチル水銀になるのですが、この化合物による副作用は過敏症以外よく分かっていませんが、問題視されるメチル水銀と似ているため、同等の基準で考えられることが多くなっています。
アメリカで自閉症の子供の率が増えている原因が、アメリカの乳児にたくさん接種されるワクチンに含まれるチロメサールが原因なのではないかと発表した方がいたため問題になってきていますが、チメロサールが原因となっているという結論は出ておりませんので、はっきりしたことは言えない状況です。
(実際、乳児がワクチンと共に接種されるチメロサールの量がアメリカでは、諸外国によりも多かったと言われています)
<オーストラリアのワクチンのチメロサール含有状況 > *4
オーストラリアでは2000年より、乳児、小児8歳以下が全員受けるワクチンには、チメロサールが含まれていませんが、唯一、hepatitis B vaccines (Engerix-B)は例外で、用量を少なくしたメロサールが含まれています。
他、各ワクチンのチメロサール含有については、以下のサイトに掲載されておりますので、ご参照ください。
<オーストラリアのH1N1インフルエンザワクチンに含まれるチメロサール>
オーストラリアで使用されているH1N1インフルエンザワクチンは、CSLが開発した、Panvax(R)です。*5
このオーストラリアのH1N1インフルエンザワクチンは、
1人分(0.5mL)が、注射器に入ったものと、
10人分(5mL)が、1瓶(バイアル)に入ったもの
以上の2種類の企画が発売されています。*6
1人用になっているものについては、保存料のチメロサールは含まれていません。
10人用になった瓶(バイアル)は、その度に針を刺すことになり病原菌の混入の可能性が1人用と比較して高くなるため、チメロサールが加えられています。
10人用(5mL)の1人分(0.5mL)中には、水銀24.5 µg *7 が含まれています。
ここからは憶測なのですが、私の知る限り、通常のインフルエンザのワクチンにおいては、複数人数用のワクチンは、老人ホームなどで、全員が接種されるような場合に用いられており、GPにおいて希望でインフルエンザのワクチンをお願いをするような場合には、1人分になったワクチンが使用されています。
そのため、憶測でお話するのは危険ですし、H1N1の行き渡り状況にもよってくると思うのですが、今回のケースでは、ご質問された妊婦さんには、1人用の保存料なしのワクチンが使用された可能性が高いのではないかと思っています。
<危険とされる水銀量について>*3 *8 *9 *10
問題となっているのは、チメロサールに含まれる水銀ですので、実際に、どれくらいの水銀を摂取(及び接種)しても安全なのかというのが、次の論点となってきます。
暫定的耐容摂取量は、人が許容できる、体重kg当たりの一週間当たりの摂取量(Provisional tolerable weekly intake (PTWI) (µg/kg/week))として表記されます。
2003年、国際専門会議(JECFA)において、発育途上の胎児を十分保護するため、水銀の暫定的耐容摂取量(PTWI)が、以前の3.3µg/kg/weekから引き下げられ、今は1.6µg/kg/weekと規定されています。
各国の暫定的耐容摂取量は、国毎に異なるのですが、オーストラリアでは、上記国際会議と同量で設定されています。
ちなみに日本でも、上記2003年の変更を受けて引き下げられ、現在は2.0µg/kg/weekとなっています。
<ワクチンに含まれる体重当たりの水銀量と水銀摂取量>
上記に記載の通り、10人用(5mL)の1人分(0.5mL)中には、水銀24.5 µgの水銀が含まれます。*6
暫定的耐容摂取量と比較するには体重毎の用量になるので、実際には各個人の体重によるのですが、日本人女性の体重の目安として50kgとすると、
体重kg当たり0.49µg/kg、約0.5µg/kgとなります。
1週間当たりの暫定的耐容摂取量、1.6µg/kg/weekと比較しても少量ですので、この量は問題がないことと思われます。
日本において、2004年までの過去13年間の日本人の1日水銀接種量調査の結果は、以下の通りになっています。
水銀の摂取量(総水銀換算): 8.42µg/ヒト/日
(うち魚介類: 6.72µg/ヒト/日、その他の食品:1.70µg/ヒト/日)
比較のため、上記を体重50kgの人が1週間当たりに摂取する量として計算すると、
8.42÷50×7=1.17µg/kg/weekです。
この量とH1N1インフルエンザのワクチンから接種されたかもしれない水銀量を加えると、1.17+0.49=1.66µg/kg/weekとなります。
このことから、インフルエンザを接種されたその週においては、オーストラリアの規定よりも少し上回ってしまった可能性がありますが、日本在住の方よりもオーストラリア在住ですと水銀を多く含む魚を食べる機会は大概にして少ないため、食事からの摂取量はこの値まで達していない可能性が高いのではないかと思っています。
<まとめ>
上記の実際の数値の比較から、もしチメロサールを含有するインフルエンザのワクチンを接種していたとしても、その含有する水銀量は、日常の食事から摂取する水銀量と比較すると少なく、問題にはならないと思われますので、ご安心ください。
長々となりましたが、強いて言うならば、このワクチンからの水銀量というよりも、日常の食事から摂取する水銀を少し気をつけてみるといいのではないかと思いました。しかしオーストラリアでは日本のように魚介類を食べられる環境にないことが多いため、問題にならないと思いますが、厚生労働省の以下のページをご参考にしてみてください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/051102-1.html
*1 http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/idsc/disease/thimerosal1.html (チメロサールについて(日本語))
*2 http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html
*3 http://www.racgp.org.au/h1n1/34286
*4 http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html#8
*5 http://www.h1n1vax.com.au/s1/cs/auvx/1249870357676/content/1249870357436/content.htm
*6 http://www.avn.org.au/library/pdfs/090915_CSL_A-H1N1VaccinePackageInsert_BasedOn2007Approvalfor%20Afluria_UCM182401.pdf (pdf file)
*7 µg=mcg (1µg=1/1,000,000g) (100万分の1グラム)
*8 http://www.ncirs.usyd.edu.au/facts/f-thiomersal.html#3
*9 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/051102-1.html (水銀について(日本語))
*10 http://www.chem.unep.ch/mercury/Report/JECFA-PTWI.htm
by wallaby429
| 2009-12-17 23:12
| Q&A 質問・回答